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営業会議のたびに詰められる。数字の話になると胃が痛くなる。そういう毎日を送っている方が、この記事を開いてくれているのだと思います。
私は営業の現場に20年いて、約70名の営業組織をマネジメントしてきました。詰める上司も、詰めない上司も、詰められて潰れていく人も、たくさん見てきました。その立場から、あまり大きな声では語られないことを書きます。
先に結論です。未達の原因は、多くの場合、本人よりも上司にあります。
「詰められるのは当たり前なのか」と思ってここに来た方に、先に短く答えておきます。数字について厳しく問われること自体は、営業という仕事をしている以上、当たり前の範囲に入ります。ただし、それが「詰め」の形を取っているなら、話は別です。当たり前なのは「厳しく向き合われること」であって、「消耗させられ続けること」まで当たり前だと思い込む必要はありません。この線引きを、この記事でできる限り具体的に書いていきます。
「詰め」と「指導」は、まったくの別物です
まず、言葉を整理させてください。数字について厳しく話し合うこと自体は、営業の仕事の一部です。問題は、その中身です。
私の見てきた範囲では、両者の違いはとてもはっきりしています。
指導は、次の行動が変わります。「なぜ取れなかったのか」を数字で分解して、来週の動きが具体的に決まる。提案の数が足りないのか、提案のタイミングがずれているのか、提案したあとの決定率が低いのか。原因の場所が特定されて、打ち手が決まる。これが指導です。
詰めは、過去を責めて終わります。「なんで取れないんだ」「気合が足りない」「来月は頑張ります」。この往復で会議が終わるなら、それは指導ではありません。誰の行動も変わらないまま、消耗だけが残ります。
あなたの職場の会議は、どちらでしょうか。
なぜ「未達の原因は上司にある」と言えるのか
乱暴な言い方に聞こえるかもしれないので、順を追って説明します。
まず、未達には二種類あります。個人の未達と、チームの未達です。
同じ商材、同じリスト、同じスクリプトで、隣の人は取れていて自分だけ取れていない。この場合、原因は個人の側にあります。私が現場で見てきた限り、その原因はだいたい4つに絞られます。提案の数が足りない、クロージングのタイミングがずれている、提案後の決定率が低い、そして、言い切れずに伺い口調になっている。どれも、具体的に直せるものです。
一方で、チーム全体が未達なら、それは個人の問題ではありません。目標の設定、リストの質、商材と市場の相性。設計の問題であり、設計は上司と会社の仕事です。
そして、ここが一番大事なところです。個人の未達であっても、その原因を特定して打ち手を示すのは上司の仕事です。4つのどこに原因があるかを見立てて、直す手伝いをする。それをせずに「気合が足りない」で済ませているなら、その未達は、もう本人だけの責任ではありません。
チームの未達を個人の根性の問題にすり替える。これが、いわゆる「詰め文化」の正体だと私は思っています。
もう少し踏み込みます。上司の一番大事な仕事は、部下の「言い訳を潰すこと」だと私は考えています。
未達のあとには、必ず言い訳の候補が並びます。リストが悪いから。商材が弱いから。時期が悪いから。それをひとつずつ検証して、直せるものは直し、打ち手を示して、「もう言い訳できる場所がない」状態まで整える。そこまでやって初めて、残った未達は本人の課題だと言い切れます。
言い訳が通ったままの職場では、人は少しずつ他責になっていきます。「自分のせいではない」と思える材料が、毎月そこに転がっているからです。当事者意識は、言い訳の潰された環境でしか育ちません。言い訳を放置したまま気合だけを求める。それが、私が「未達の原因は上司にある」と書く理由です。
詰められ続けると、人はどうなるか
改善されない人には、二つのパターンがあります。一つは、自分に甘いパターン。生返事で「わかったつもり」になり、同じことを繰り返す。これは本人の問題です。
もう一つは、断られ続け、詰められ続けて、考えることを放棄してしまうパターンです。こちらは職場がつくり出す状態です。考える力が残っているうちは、人は改善できます。でも、毎週責められるだけの環境に置かれると、人は「どうすれば取れるか」ではなく「どうすればこの場をしのげるか」を考えるようになります。そうなったら、成長は止まります。
もしあなたが後者に心当たりがあるなら、それはあなたの能力の問題ではなく、環境があなたの考える力を奪っている可能性があります。
職場を見分ける、3つのチェック
今の職場が「詰め」なのか「指導」なのか。会議を思い出しながら、確認してみてください。
- 未達の話が、数字の分解になっているか。「提案数は足りていたか」「決定率はどうか」まで下りているなら指導です。「気合」「意識」で終わるなら詰めです
- 上司自身が、打ち手を持っているか。同行する、トークを一緒に直す、リストを見直す。上司が自分の仕事として動いているか
- うまくいっていない時期の扱われ方。うまくいかない時ほど、組織の本性が出ます。調子を落とした人を立て直そうとする職場か、切り捨てる職場か
3つとも当てはまらないなら、その環境で自分を責め続ける必要はありません。あなたが変わるより先に、環境を変えた方が早いことがあります。
これは「パワハラ」に当たるのか
「詰められる」を通り越して、「これはもうパワハラなのでは」と感じている方もいると思います。ここは感覚だけで判断せず、公的な基準を知っておくと整理しやすくなります。
厚生労働省は、職場のパワーハラスメントを次の6つの類型で示しています(出典:厚生労働省「あかるい職場応援団」)。
- 身体的な攻撃(暴行・傷害)
- 精神的な攻撃(脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言)
- 人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
- 過大な要求(業務上明らかに不要なこと・遂行不可能なことの強制)
- 過小な要求(能力とかけ離れた程度の低い仕事を命じる、仕事を与えない)
- 個の侵害(私的なことに過度に立ち入る)
ポイントは、「業務上必要かつ相当な範囲を超えているかどうか」です。数字について厳しく問われること自体は、業務上必要な範囲に収まる場合が多く、それだけで即パワハラとは言えません。一方で、人格を否定するような暴言、達成不可能な目標を強要し続けること、他の社員の前で執拗に責め立てることなどは、この基準を超えている可能性があります。
具体的に、どんな言葉がアウトなのか
基準だけだと自分の職場に当てはめにくいと思うので、私が現場で見聞きしてきた範囲で、指導の範囲に収まりやすい言葉と、パワハラに近づいていく言葉を並べてみます。
指導の範囲に収まりやすい例
- 「今月の提案数、先月より減っているけど何が原因だと思う?」
- 「このトーク、もう少し早い段階で価格の話に入った方がいいかもしれない」
- 「一緒に同行するから、次の商談でやり方を見せてほしい」
パワハラに近づいていく例
- 「お前は営業に向いてない」「使えない」など、能力そのものを否定する言葉
- 他の社員がいる前で、長時間・繰り返し同じ人だけを責め立てる
- 「今日中に契約取れなかったら意味ない」など、物理的に不可能な目標を突きつける
- 体調不良を理由にした休みの申請を、詰めの材料にする
1回や1言だけで判断するのは難しいですが、こうした言葉が毎週のように繰り返されているなら、それはもう「厳しい指導」の範囲ではないと私は思います。
ここから先は、私の営業経験の範囲を超える話になります。判断に迷う場合や、実際に心身に影響が出ている場合は、社内外の相談窓口(総合労働相談コーナー・労働局など)に相談することをおすすめします。一人で抱え込む必要はありません。
なぜ「詰める」文化はなくならないのか
ここまで読んで、「それなら会社も分かっていて直すはずでは」と思う方もいるかもしれません。私が見てきた範囲では、詰める文化がなくならない理由は、たいてい単純です。
詰めている本人が、自分がされてきたことを再現しているだけのことが多いのです。かつて自分が詰められて数字を作ってきた人ほど、「厳しくされないと人は動かない」と信じています。しかもそのやり方で自分自身は結果を出してきた成功体験があるので、疑う理由がありません。指導のやり方を教わったことがないまま管理職になり、知っている唯一のマネジメント方法が「詰めること」だった、というケースも少なくありません。
もう一つの理由は、詰めた方が、上司自身は楽だからです。原因を数字で分解して打ち手を示すには、部下の商談を実際に見たり、リストの中身を確認したりする手間がかかります。「気合が足りない」で済ませれば、その手間を省けます。詰め文化は、上司の側の負担を減らす仕組みでもあるのです。
会社の規模が大きくなるほど、この構造は変わりにくくなります。人事や経営層まで問題が届く前に、現場だけで完結してしまうからです。もしあなたの職場がそうなら、あなた一人の努力で文化そのものを変えるのは難しい、というのが正直なところです。文化を変えるより先に、自分の働き方や環境を変えるという選択の方が、現実的で早いことが多いと私は思っています。
詰められている今、今日からできる3つのこと
環境を変える決断には、多くの場合、時間がかかります。転職するにしても、準備や情報収集の期間が必要です。ここでは、今の職場に残りながら、今日からできることを3つ書きます。
- 会議の内容を、事実だけ記録しておく:「いつ」「誰に」「何を言われたか」を、感情を抜いて事実だけメモしておきます。これは自分の記憶を守るためでもあり、万が一、相談窓口や転職エージェントに状況を話すときに、具体的に説明できる材料にもなります
- 「言い訳を潰す」を、自分から先回りしてやる:上司が言い訳を潰してくれない職場なら、自分で先にやってしまう方法もあります。未達の理由を、提案数・タイミング・決定率・伝え方の4つで自己分析してから会議に臨むと、「気合が足りない」という抽象的な詰めに対して、「ここまでは検証済みです」と事実で返せます。詰めが通用しにくくなります
- 信頼できる同僚か、社外の人に、状況をそのまま話してみる:詰められ続けている環境にいると、「これが普通なのかもしれない」という感覚が麻痺してきます。社外の人に話すと、「それは普通じゃない」と気づかせてもらえることがあります。転職エージェントとの面談も、その一つの手段です。話すだけなら、今すぐ環境を変える決断をする必要はありません。エージェントは求人を紹介するだけの存在ではなく、あなたの状況を客観的に整理してくれる相手としても使えます
よくある質問
Q. 詰められて頭が真っ白になり、何も言えなくなります。これはおかしいですか?
おかしくありません。強いストレスがかかると、人は考える力そのものが一時的に落ちます。「頭が真っ白になるのは自分が弱いから」ではなく、そういう場に繰り返し置かれた結果であることが多いです。
Q. 同期や後輩の前で詰められるのがつらいです。
これは先ほどの「パワハラに近づいていく例」に挙げた行動に近いです。指導であれば、本来は1対1で十分に成立します。人前で行うことに教育的な必要性がないなら、それは指導ではなく、見せしめに近いものだと私は思います。
Q. 上司に「気にしすぎ」「昔はもっと厳しかった」と言われました。
過去の基準や、他人の感じ方を、今のあなたに当てはめる必要はありません。同じ言葉を受けても、しんどいと感じるかどうかは人によって違います。「気にしすぎ」で片づけられる話ではないと、私は思います。
Q. 人事や上司のさらに上に相談したら、状況が悪化しませんか?
相談したことが詰めている上司に伝わり、関係がぎくしゃくするリスクはゼロではありません。ただ、記録を残した上で相談すれば、「言った・言わない」にはなりにくくなります。社内の窓口が信用できないと感じる場合は、外部の労働局や、無料の労働相談窓口を使う方法もあります。社内で完結させる必要はありません。
勘違いしないでほしいこと
ここまで読んで、「そうか、未達は上司のせいだったんだ」と安心しかけた方に、一つだけ釘を刺させてください。この記事は、他責の免罪符ではありません。
言い訳の通る職場に長くいると、あなた自身が「できない理由を探す癖」を身につけてしまいます。そしてその癖は、転職先にもそのまま持ち運ばれます。環境のせいにしていい部分と、自分の言い訳とを、切り分けられているか。環境を疑うことと、自分を疑うこと。両方できる人だけが、次の場所で伸びていきます。これも、20年見てきた実感です。
まとめ
- 数字に厳しいことと、詰めることは別。指導は行動が変わり、詰めは消耗だけが残る
- 「詰められるのは当たり前か」の答えは、厳しく向き合われることは当たり前、消耗させられ続けることは当たり前ではない
- 上司の一番大事な仕事は、部下の言い訳を潰すこと。言い訳が通る職場では当事者意識が育たない
- チームの未達を個人の根性にすり替えるのが「詰め文化」
- 厚労省のパワハラ6類型を基準に、業務上必要かつ相当な範囲を超えていないか確認する
- 会議の記録・自己分析による先回り・社外の人に話す、の3つは今日からできる
最後にひとつ。この記事は「詰められたら即転職」を勧めるものではありません。指導してくれる上司の厳しさと、消耗させるだけの詰めは、冷静に見れば区別がつきます。見分けた上で、残るか離れるかを、あなたが決めてください。
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この記事を書いた人
営業ひとすじ20年。電話営業・インサイドセールスの現場から始まり、約70名の営業組織のマネジメントを経験。採用面接にも数百人単位で関わってきました。「辞めて正解だった人」も「辞めなくてよかった人」も見てきた立場から、テレアポ・インサイドセールス・営業職の次のキャリアについて、きれいごとではない話を書いています。


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