SaaS営業への転職を調べていると、必ずと言っていいほど出てくるのが「The Model(ザ・モデル)」という言葉です。
難しそうな響きですが、求職者として知っておくべきことは、そう多くありません。この記事では、The Modelとは何かを分かりやすく整理したうえで、転職する側にとって、それがどういう意味を持つのかを、現場目線でお伝えします。
私は営業ひとすじ20年、約70名の営業組織を管理してきました。教科書的な説明だけでなく、「実際のところ、この仕組みはどうなのか」という本音も書きます。
Q. The Model型の分業モデルとは、簡単に言うと?
一人の営業がすべてを担っていた仕事を、「マーケティング」「インサイドセールス(IS)」「フィールドセールス(FS)」「カスタマーサクセス(CS)」の4部門に分けて、バトンを渡すように進めていく営業の分業モデルです。
「The Model型」という言い方をされることもありますが、指しているものは同じです。Salesforce社が磨いてきた考え方で、SaaS業界を中心に広まりました。この後、それぞれの部門が何をするのか、求職者として何を確認すればいいのかを、順番に説明していきます。
The Modelとは、営業を「分業」する仕組みです
The Modelは、アメリカのSalesforce社で磨かれた営業の分業体制です(出典:Salesforce)。
ひとことで言うと、これまで一人の営業が全部やっていた仕事を、4つの部門で分担する、という考え方です。それぞれの部門が自分の専門に集中することで、全体の生産性を上げる。それがねらいです。
| 部門 | 役割 |
|---|---|
| マーケティング | 見込み客(リード)を集め、育てる |
| インサイドセールス(IS) | 見込み客とやりとりし、商談につなげる |
| フィールドセールス(FS) | 商談を引き継ぎ、提案してクロージングする |
| カスタマーサクセス(CS) | 契約後、お客さまの成功を支援し、継続してもらう |
マーケが集めて、ISが温めて、FSが決めて、CSが支える。バトンを渡していくリレーのような形です。それぞれの情報をツールで可視化・数値化しながら進めるのが特徴です(出典:SATORI)。
なぜSaaSで、これが広まったのか
理由はシンプルです。一人で全部やるのは、無理があるからです。
集客も、見込み客の育成も、商談も、契約後のフォローも。これを一人で担うと、どこかが手薄になります。分業にすれば、それぞれが自分の得意なことに集中できる。SaaSはオンラインで見込み客が入ってくる場面が多く、この分業と相性が良かったのです。
そして、転職を考えるあなたにとって、いちばん大事なのはここです。あなたが応募するのは、この4つのうちの「どれか一つ」です。
求職者が、いちばん確認すべきこと
The Modelを知る意味は、この一点に尽きます。「自分が応募しているのは、どの役割なのか」を、はっきりさせることです。
同じ「SaaS営業」でも、ISとFSではまったく違う仕事です。ISはさらに、反響対応のSDRと、新規開拓のBDRに分かれます。ここを曖昧にしたまま応募すると、面接でズレますし、入社後にもギャップが出ます。
求人票を見るときは、「この求人は、4つのうちどこの役割か」「クロージングまでやるのか、商談を渡すところまでか」を必ず確認してください。分からなければ、面接で聞いて構いません。むしろ「分かっている人だ」と好印象になります。
分業は固定ではなく、「力量」で動いていきます
もう一つ、大事なことをお伝えします。The Modelは役割が分かれていますが、その役割は、一生固定ではありません。力量によって、動いていきます。
たとえばフィールドセールス(クローザー)には、「決めきる力」=決定率が要ります。ここが弱い人がクローザーをやると、どうなるか。インサイドセールスがどれだけ良いアポをつないでも、決まりません。「これ以上つないでも決まらないなら、アポの取り方から見直そう」と、話が前の工程へ逆戻りしてしまう。分業そのものが、うまく回らなくなるのです。
逆に、インサイドセールスやテレアポをやっている人の多くは、フィールドセールスへ上がっていきたいと考えます。当然です。所得も上がりますし、役職も、目立つポジションも、その先にあるからです。そして、そこへ行くにはクローザーとしての決定力が必要になります。
ここが、テレアポとの「見え方」の違いです。やっていることは電話で同じように見えても、「決定率が何パーセント以上」「受注率が何パーセント以上」「アポが何件」といった数字の目標を達成することが、次のステップへ上がるための条件になります。ただ数をこなすのではなく、数字で結果を出す。それが、キャリアを一段上げる鍵です。
ただし、「決めればいい」ではありません
ここに、大事な但し書きがあります。「どんな手段を使ってでも決めればいい」という話ではないのです。
The Modelは、チームワークです。あなたが決めた契約は、このあとカスタマーサクセスへ引き継がれていきます。もし無理に押し込んで取った契約が、あとでクレームになれば、まったく意味がありません。むしろ、後の工程の仲間に迷惑をかけ、会社の信頼まで損ないます。
だから、本当に重宝されるのは、決定率が高く、かつ、質の高い契約を取れるクローザーです。後工程のことまで考えて、クレームにならない獲得ができる人。ここまでできて初めて、分業の中で「上がっていける人」になります。
正直な話:The Modelは、万能ではありません
ここからは、現場を見てきた立場としての本音です。
The Modelは優れた仕組みですが、「分業すれば、うまくいく」というほど単純ではありません。 実際、専門家からも課題が指摘されています。たとえば「お客さまがフィールドセールスに直接連絡してきてしまい、いつまでもカスタマーサクセスに引き継げない」といった、部門間の引き継ぎの難しさです(出典:SATORI、パーソル総合研究所)。
分業には、こういう落とし穴もあります。
- 「自分の担当範囲しか見ない人」が生まれやすい。ISは商談を渡したら終わり、と考えてしまうと、質の低い商談を流してFSに嫌われる。分業だからこそ、前後の部門への意識が要ります
- バトンの受け渡しで、情報が抜け落ちる。お客さまが「さっきの人にはもう話した」と、同じ説明を繰り返すことになりがちです
だから、良いISは、自分の担当だけでなく「渡した先のFSが動きやすいか」まで考えています。分業の中でも、全体を見られる人が、結局いちばん評価されます。
そして、すべての会社が「The Model型」ではありません
これも、知っておいてください。SaaS営業=すべてThe Modelの分業型、というわけではありません。
会社によっては、一人の営業が、見込み客との最初のやりとりから、電話でのクロージングまで、全部やり切る形もあります。分業せず、一人で完結させるスタイルです。とくに中小規模の会社や、立ち上げ期の組織では、こちらのほうが多いこともあります。
分業型と完結型、どちらが良い悪いではありません。ですが、働き方はまるで違います。分業型は「自分の役割を深く極める」働き方、完結型は「最初から最後まで自分で見る」働き方です。
だからこそ、繰り返しになりますが、応募する会社が「分業型なのか、完結型なのか」を確認することが、ミスマッチを防ぐいちばんの近道です。The Modelという言葉を知っておくと、この質問が自然にできるようになります。
まとめ
The Modelは、営業をマーケ→IS→FS→CSの4部門で分業する、Salesforce発の仕組みです。SaaSで広く採用されていますが、引き継ぎの難しさなど、万能ではない面もあります。
転職する側にとって大事なのは、この言葉を丸暗記することではありません。「自分が応募するのは、どの役割か」「その会社は分業型か、完結型か」を確認できるようになることです。それだけで、求人の見え方が変わり、入社後のギャップがぐっと減ります。
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※出典を記載した部分は、その媒体の見解・一般的な傾向です。出典のない部分は、筆者が約70名の営業組織を管理してきた中での実感であり、統計ではありません。営業組織の形や役割分担は、企業によって大きく異なります。
この記事を書いた人
営業ひとすじ20年。電話営業・インサイドセールスの現場から始まり、約70名の営業組織のマネジメントを経験。採用面接にも数百人単位で関わってきました。「辞めて正解だった人」も「辞めなくてよかった人」も見てきた立場から、テレアポ・インサイドセールス・営業職の次のキャリアについて、きれいごとではない話を書いています。


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