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採用する側には、覚悟と責任があります。向いていない仕事を、本人に気づかせないまま続けさせることは、優しさではなく、その人の時間を奪うことだと思っています。私は営業の現場に20年いて、約70名の営業組織をマネジメントしてきました。この記事では、採用する側が背負っている責任の中身と、それがなぜ「早く、率直に伝えること」につながるのかを書きます。
採用する側の責任は、どこから始まるのか
営業職の採用は、「数字を追える人を見極めて採用する」ことと、「採用した人を、数字を追える人に育てる」ことの、両方が前提になっています。どちらか一方ではありません。見極めが甘ければ、そもそも合わない人を現場に立たせることになりますし、育成が甘ければ、素質があった人を活かしきれずに終わります。この両方に本気で向き合うことが、採用する側の最初の責任だと思っています。
これは、面接で数分話しただけで人を判断する、という意味ではありません。採用してから、実際にマネジメントし、育成し、PDCAを回していく中で、その人が営業という仕事とどう向き合っているかを、時間をかけて見ていくということです。
向いていない仕事を続けさせることは、なぜ「もったいない」のか
本気で育成しても、どうしても数字が伸びない人がいます。これは、その人が怠けているからでも、人として劣っているからでもありません。単純に、営業という仕事の形と、その人の資質が合っていないということです。
問題は、この状態に本人も周りも気づかないまま、時間だけが過ぎていくことです。もし、その人が別の仕事を選んでいたら、まったく違う場所で力を発揮できていたかもしれません。営業という一つの土俵で結果が出ないことは、その人の価値とは関係がありません。それでも、合わない場所に居続ける時間が長くなるほど、本来なら輝けたはずの場所に出会う機会が、少しずつ失われていきます。私は、これを「もったいない」と感じています。
「向いていない」と決めつける前に、やるべきことがある
ここで、誤解のないように書いておきたいことがあります。数字が出ないからといって、すぐに「向いていない」と結論づけていいわけではありません。採用した以上、育てる責任がまずあります。
具体的には、目標の伝え方は適切だったか、必要な研修や同行は十分にできていたか、担当する商材やエリアとの相性は見直したか、フィードバックの機会をきちんと設けていたか。これらを一つずつ試した上で、それでも変わらない場合に、初めて「向いていない」という判断の土俵に上がります。育てる努力を尽くさずに「向いていない」と切り捨てるのは、責任の放棄です。ここを飛ばして判断してはいけないと、自分自身に言い聞かせてきました。
それでも変わらないとき、早く伝えるのは、なぜ「思いやり」なのか
やれることをやり尽くしても、結果が変わらないことはあります。ここで問われるのが、採用する側の覚悟です。
このとき、一番やってはいけないと思っているのは、本人にはっきり伝えないまま、なんとなく現状維持を続けることです。結果が出ない状態を先延ばしにすればするほど、本人は「このままでいいんだ」と思い込み、他の道を探すタイミングをどんどん失っていきます。その人の人生がかかっている以上、これは会社にとっての損失である以上に、本人にとっての損失です。
だからこそ、本気で向き合った上で難しいと分かったときは、早めに、率直に伝えるべきだと思っています。これは、突き放すためではありません。今の場所で結果が出ていないというだけで、その人自身の価値が低いわけではないと伝えた上で、次の道を一緒に考える。そこまでが、採用する側の責任だと考えています。
「難しい」と伝えるとき、何を、どう伝えるか
ここで、実際にどう伝えるかについても触れておきます。伝え方を間違えると、せっかくの誠意が、本人にはただの否定として届いてしまうことがあります。私が意識してきたのは、次の3つです。
- 結果だけでなく、そこまでの過程を、具体的に伝える:「向いていない」という一言で終わらせず、どんな研修をしたか、どんなフィードバックを重ねたか、それでも変わらなかった部分はどこか。過程を具体的に示すことで、本人も「見放された」のではなく「一緒にやってきた結果」として受け止めやすくなります
- その人の良さを、はっきり言葉にする:営業では結果が出なくても、丁寧さ、粘り強さ、人当たりの良さなど、別の場所で活きる資質を持っている人がほとんどです。営業という一つの物差しだけで評価されたわけではないことを、具体的に伝えます
- 次の道について、こちらから一緒に考える姿勢を見せる:「あとは自分で考えて」と突き放すのではなく、社内の他部署の可能性、あるいは社外での可能性まで、一緒に考える時間を作ります
この3つがあるかどうかで、同じ「厳しい話」でも、本人にとっての受け止め方は大きく変わります。
この判断は、管理職の側にも、重さがあります
ここまで、本人にとっての話として書いてきましたが、率直に言うと、この判断は、伝える側にとっても簡単なことではありません。採用した以上、育てきれなかったのではないかという思いは、常について回ります。本人の顔を思い浮かべながら、何度も迷いました。それでも、迷ったまま先延ばしにすることが、一番よくない選択だという結論に、私は行き着きました。
この重さから逃げて、なんとなく現状維持を選ぶ管理職を、これまで何人も見てきました。その結果、本人が結果の出ない状態のまま何年も同じ場所にとどまり続けることになった、というケースも見てきました。管理職側の迷いや気まずさを理由に判断を先延ばしにすることは、結局のところ、本人のためにはなりません。
「切り捨てる」ことと、「次の道を勧める」ことの違い
こう書くと、冷たく聞こえるかもしれません。しかし、私が伝えたいのは、その逆です。育てる努力を尽くさずに見切ることは、切り捨てです。一方、本気で育てた上で、それでも合わないと分かったときに、率直に伝えて次の道を一緒に考えることは、切り捨てではありません。むしろ、その人がどこかで輝ける可能性を、まだ信じているからこそできることです。
お互いにとって、結果が出ないまま時間だけが過ぎていく状態は、誰も得をしません。だからこそ、悲しい結末にしたくないという思いが、採用する側の責任の根っこにあります。
よくある疑問
これは、結局「辞めさせる」という話ですか
そうとは限りません。営業という職種では合わなくても、同じ会社の中で、別の職種であれば力を発揮できる人はたくさんいます。事務、カスタマーサポート、採用や研修など、営業で培った対人スキルが活きる部署は意外と多くあります。社内での異動が現実的な選択肢としてあるなら、まずそこを検討します。社外への転職は、社内に合う場所がない場合の選択肢の一つです。
本人が納得しない場合は、どうすればいいですか
本人がすぐに納得できないのは、自然なことだと思っています。だからこそ、一度の面談で結論を急がず、これまでの過程を振り返る時間を、複数回に分けて持つようにしてきました。結果だけを突きつけるのではなく、本人自身が「確かに、ここは苦手だったかもしれない」と自分の言葉で気づけるところまで、時間をかけて一緒に振り返ります。
何年くらいで、見切りをつけるべきですか
一律の年数はありません。担当する商材や、教育体制によっても変わります。ただ、目安として意識してきたのは、「新しい打ち手を試すたびに、何かしらの変化(小さな改善でも)が見えているか」です。打ち手を変えても、まったく変化が見えない状態が長く続いているなら、それは時間の問題ではなく、根本的な相性の問題である可能性が高いと判断してきました。
これは、採用担当だけの話ではありません
ここまで、採用する側の責任について書いてきましたが、これは今、転職を考えている方にとっても、無関係な話ではありません。もし今、結果が出ないことに悩んでいるなら、まず確認してほしいことがあります。今の職場は、あなたを育てる努力を、きちんとしてくれているでしょうか。目標の背景を説明し、必要な研修や同行を行い、フィードバックを重ねた上で、今の状況になっているでしょうか。
もし、育てる努力がほとんどないまま「向いていない」という空気だけが漂っているなら、それはあなたの資質の問題ではなく、会社側の責任が果たされていない可能性があります。逆に、本気で向き合ってもらった上で、それでも合わないと感じているなら、それは環境を変える、正当な理由になります。
転職先を選ぶときも、同じ視点が使えます。採用してからきちんと育てる文化があるか、結果が出ないときに率直なフィードバックがある会社かどうかは、面接や面談の中で、聞いてみる価値のある質問です。あなたを採用する側にも、この記事で書いてきたような覚悟があるかどうかを、見極めてみてください。具体的には、次のような質問が手がかりになります。
- 「入社後、最初の数ヶ月はどんな研修や同行がありますか」:具体的な育成の仕組みを答えられる会社は、育てる前提で採用していることが多いです
- 「結果が出ないとき、どんなフィードバックがありますか」:「詰められます」としか答えられない会社より、「一緒に振り返る場があります」と答えられる会社のほうが、見極める前提として安心できます
- 「営業以外の部署への異動実績はありますか」:社内に別の道があるかどうかは、その会社が「一度の配属で終わり」にしない文化かどうかの手がかりになります
これから管理職を目指す方へ
この記事で書いてきた覚悟は、今すでに人を採用・育成する立場にいる方だけでなく、これから管理職を目指す方にとっても、知っておいて損はない考え方だと思っています。テレアポやインサイドセールスの経験を積んだ先には、チームを持つ立場が見えてくる人もいます。そのとき、部下の数字を追うだけの管理職と、部下一人ひとりの適性を見極め、育て、必要なときには率直に向き合える管理職とでは、チームの空気も、辞めていく人の数も、大きく変わってきます。
採用と育成の責任は、経営者や人事だけのものではありません。現場でチームを預かる立場になった瞬間から、誰もがこの責任の一端を背負うことになります。この記事の内容は、管理職としてのキャリアを考え始めた方にとっての、一つの心構えとして読んでもらえたらと思います。
まとめ
- 採用する側の責任は、「取れる人を見極めて採用する」ことと、「採用した人を育てる」ことの両方です
- 向いていない仕事を続けさせることは、その人が別の場所で輝ける機会を奪う、もったいないことです
- 育てる努力を尽くさずに「向いていない」と決めつけてはいけません
- それでも変わらないときは、早く、率直に伝えることが、本人のための思いやりになります
- 育てずに見切るのは切り捨てですが、育てた上で率直に伝えることは、次の可能性を信じているからこそできることです
- 転職先を選ぶときは、採用してから育てる文化があるかどうかも、見極めるポイントになります
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