「営業代行として独立しました」という話を、取引先から聞くことがあります。
僕自身の部下から、そういう人が出たことはまだありません。でも、この業界にいると、その手の話は不思議と耳に入ってくるものです。
そしてその話を聞くたびに、正直に思うことがあります。「その気持ち、わかるな」と。
PLを計算すると、誰でも一度は思う
売上と原価、粗利、手数料率。そういう数字を並べて見ていると、ふと気づく瞬間があります。
「これ、自分でやった方が儲かるんじゃないか」
会社を通しているから、間に人が入っているから、自分の取り分は圧縮されている。もし自分が直接請け負う形にできたら、その収益はそのまま自分の手数料として入ってくる。単純な算数です。
これは、特別な発想でも何でもありません。数字を扱う仕事をしていれば、誰でも一度は頭をよぎる考えだと思います。僕自身、PL・利回りを計算していて、そう思ったことは何度もあります。
思うことと、動くことの間には距離がある
ただ、ここからが本題です。
「自分でやった方が儲かるな」と気づくことと、実際に独立して動くことは、まったく別の話です。
特に、今すでに安定したキャリアの中にいる人ほど、その距離は大きくなります。ある程度の地位があって、名誉があって、収入もそれなりに確保できている。そういう状態から独立に踏み切るというのは、単純に「今より儲かりそうだから」だけでは説明できません。
なぜなら、そこには痛みが伴うからです。
今持っているものを手放すリスク。会社の看板があったから成立していた信用を、自分一人の名前で取り戻さなければいけない不安。うまくいかなかったときに、戻る場所がないかもしれないという恐怖。計算上は儲かるとわかっていても、それを行動に移すには、また別の種類の勇気がいります。
行動力がすごい、と素直に思う
だから、実際に独立を実現させた人の話を聞くと、僕は素直に「行動力がすごいな」と思います。
頭で計算するだけなら、誰でもできます。でも、安定した今の環境をあえて手放して、自分の名前一つで勝負しにいく。その一歩を踏み出せる人は、そう多くありません。
これは「独立した方がいい」という話でも、「独立しない人は臆病だ」という話でもありません。むしろ逆で、今のキャリアの中で積み上げてきたものがある人ほど、動かないという選択にも十分な理由があります。守るべきものがあるということは、それ自体が一つの財産だからです。
大事なのは、どちらが正解かではない
営業という仕事は、成果が数字ではっきり見える分、「自分でやったらどうなるか」という計算が頭に浮かびやすい職種だと思います。
その計算をすること自体は、悪いことでも特別なことでもありません。ただ、その計算の先に「実際に動くかどうか」を決めるのは、儲かるかどうかとは別の軸です。今何を積み上げていて、それを手放す覚悟がどれだけあるか。そこを自分でちゃんと見つめられているかどうかだと、僕は思っています。
取引先から独立の話を聞くたびに、僕はその人の背中を押した何かに、少しだけ興味を持ってしまいます。
この記事を書いた人
営業ひとすじ20年。電話営業・インサイドセールスの現場から始まり、約70名の営業組織のマネジメントを経験。採用面接にも数百人単位で関わってきました。「辞めて正解だった人」も「辞めなくてよかった人」も見てきた立場から、テレアポ・インサイドセールス・営業職の次のキャリアについて、きれいごとではない話を書いています。


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