部下からの「逆パワハラ」に悩む上司へ。70人を管理してきた私も、受けました。

部下からの「逆パワハラ」に悩む上司へ。70人を管理してきた私も、受けました。 営業・テレアポからの転職

部下からの言動がきつくて、検索窓に「逆パワハラ」と打ち込んだ。この記事は、そういう状況にいる上司・リーダーの方に向けて書きます。私は営業ひとすじ20年、約70名の営業組織をマネジメントしてきました。その私も、部下からの突き上げに悩んだ経験があります。上司の立場でこの悩みを口にするのは、なんとなく格好がつかない気がして、誰にも相談できずに抱え込んでいる人が多いはずです。だからこそ、管理職側の実体験として書いておきます。

「逆パワハラ」は、甘えではありません

まず最初に確認しておきたいのは、部下から上司への言動も、条件を満たせばパワーハラスメントに該当しうる、ということです。これは感覚的な話ではなく、国の指針に明記されています。

厚生労働省の指針では、職場のパワーハラスメントは「①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるもの」で、3つの要素をすべて満たすものとされています。そして、この「優越的な関係」の例として、職務上の地位が上の者だけでなく、次のようなケースが挙げられています。

  • 同僚又は部下による言動で、当該言動を行う者が業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、当該者の協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難であるもの
  • 同僚又は部下からの集団による行為で、これに抵抗又は拒絶することが困難であるもの

(出典:厚生労働省「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」令和2年厚生労働省告示第5号)

つまり「上司なんだから我慢しろ」という話ではないのです。立場が上でも、抵抗しにくい状況で継続的に攻撃されれば、それはハラスメントの問題になりえます。該当するかどうかは個別の判断になりますが、少なくとも「上司が部下の言動で追い詰められる」という構図そのものは、国の指針が正面から想定しているものです。まずここを知っておくだけで、少し楽になると思います。

私が受けた話

以前、中途で入ってきた若手の社員に、着任早々からあらゆる面で強い調子のダメ出しを受け続けたことがあります。

毎日のミーティングの進め方について「あんなやり方では人はついてきませんよ」と言われ、勤怠の管理や残業の扱いについても、何から何まで指摘を受けました。入って間もない、まだ現場の背景も分かっていない段階の人からです。正面から言われる分には、まだ対話のしようがあります。きつかったのは、そこではありませんでした。私たちの目が届かないところで、同じ時期に入った社員に対して、上司を下げるような話をしていたのです。それを後から知ったときの、じわじわとやりづらくなっていく感覚は、経験した人にしか分からないと思います。

当時の私の内面を書いておくと、日中は平静を装えても、帰り道や夜に、ふと反芻してしまうのです。あの言い方はないだろう、いや、でも指摘の中身に一理はあるのか、自分のマネジメントが本当にまずいのか。20年やってきて、それなりに修羅場もくぐってきたつもりの自分が、入って間もない一人の社員の言動で、ここまで揺さぶられるのかと驚きました。そして何より心配だったのは、他のメンバーへの影響です。陰で上司下げの話を聞かされている側のメンバーは、どう感じているのか。放っておけば、チームの空気ごと持っていかれるのではないか。自分が傷つくこと以上に、そちらの怖さのほうが大きかったです。

その社員は、結果として短い期間で辞めていきました。振り返れば、あれは指針が言う「抵抗又は拒絶することが困難」な状況に近いものだったのだろうと思います。こちらは頭ごなしに叱ることもできない。強く出れば、今度はこちらがパワハラだと言われかねない。攻め手は向こうにだけあって、こちらは受けるしかない。あの非対称さが、一番こたえました。

なぜ上司は、やり返せないのか

部下からの攻撃に対して、上司が反撃しにくい理由は、はっきりしています。

一つ目は、強く出た瞬間に、立場が逆転して「こちらがパワハラの加害者」になりうるからです。上司と部下の言い合いは、外から見れば「上司が部下を追い詰めている」ように見えやすい。この構図を分かっている側は、強気に出られます。分かっているからこそ、こちらは言葉を選び続けるしかありません。

二つ目は、相談のハードルです。部下にきつく当たられて参っています、と自分の上司や人事に言うのは、管理能力を疑われそうで怖い。「それくらいマネジメントで何とかしろ」と言われそうな気がする。だから一人で抱え込む。この記事にたどり着いた方も、おそらく同じ状態ではないでしょうか。

三つ目は、陰で行われる攻撃には、そもそも打つ手が見えにくいことです。面と向かって言われたことには反論できますが、見えないところで信頼を削られていくのは、対処のしようがありません。気づいたときには、周囲の空気が少し変わっている。これが一番じわじわ効きます。

「部下の意見」と「逆パワハラ」の線引き

ここで一つ、公平に書いておきたいことがあります。部下が上司に意見を言うこと自体は、まったく悪いことではありません。むしろ、現場からの率直な指摘で救われた経験は、私にも何度もあります。若い人の視点でしか見えないものは、確実にあります。

問題は、中身ではなく態様です。厚生労働省の指針でも、パワハラかどうかの判断は「業務上必要かつ相当な範囲を超えたか」で見る、とされています。同じ「ミーティングのやり方への指摘」でも、改善提案として伝えるのと、人格ごと否定するように毎日ぶつけるのとでは、まったく別物です。批判の対象が「仕事の進め方」にとどまっているか、「あなた自身」に向かっているか。表で言っているか、陰で広めているか。単発か、執拗か。このあたりが、意見とハラスメントを分ける目安になると思います。

具体例で比べると分かりやすいと思います。「朝礼のこの部分は、若手には意図が伝わりにくいかもしれません。こういう形はどうでしょうか」は、意見です。歓迎すべきものです。一方、「あんなやり方では人はついてきませんよ」を、入って間もない段階から、改善案もなく、毎日のように、しかも周囲に聞こえる形でぶつけるのは、指摘の体裁をとった攻撃に近づいていきます。言っている内容の正しさとは別の問題として、です。中身が正しければどんな言い方をしてもいい、ということにはなりません。これは上司から部下への指導とまったく同じ理屈です。

逆に言えば、上司の側も、部下からの指摘を「逆パワハラだ」と安易にラベリングしてはいけません。耳の痛い正論を封じるためにこの言葉を使えば、それこそ組織が腐ります。私自身、あの経験のあとも「意見はむしろ歓迎する。ただし、やり方は選んでほしい」というスタンスは変えていません。

実際にどう向き合うか。私が考える5つの対応

では、渦中にいるとき、具体的にどうすればいいか。私の経験と反省を踏まえて、5つ挙げます。

1. 記録を残す。いつ、どこで、何を言われたか。日付と発言内容を、簡単でいいのでメモしておくことです。感情的な訴えは伝わりにくいですが、事実の積み重ねは強い。後で人事や上司に相談するときも、記録があるかないかで受け止められ方がまったく違います。

2. 一人で抱えず、自分の上司や人事に「事実」を報告する。これは告げ口ではありません。組織の状態報告です。ポイントは、「参っています」という感情ではなく、「このような言動が、この頻度で起きています」という事実から入ることです。管理能力を疑われる、という心配は分かりますが、抱え込んで自分が壊れるほうが、組織にとってよほど損失です。

3. 1対1の場面を減らす。強い言動が出やすいのは、目撃者のいない場面です。面談や指導の場に第三者を同席させる、オープンな場所で話す。それだけで言動が変わることは、実際にあります。自分を守る意味でも、あらぬ疑いを避ける意味でも、有効です。

4. 感情で返さず、事実と業務で返す。挑発的な言動に感情で応じれば、相手の土俵に乗ることになります。指摘の中に業務上妥当な部分があれば、そこだけ拾って対応する。妥当でない部分は、深追いせず流す。淡々と、事実ベースで。これは我慢とは違います。土俵を選んでいるのです。

5. 「聞く姿勢」は捨てない。一人にやられたからといって、部下全員への構えを固くしてしまうと、組織全体との信頼が壊れます。攻撃には線を引きつつ、意見には開いておく。難しいバランスですが、ここを間違えると、二次被害のほうが大きくなります。

一番怖いのは「集団化」です。初動で止める

もう一つ、経験者として強調しておきたいのは、逆パワハラで本当に怖いのは一人の言動そのものより、それが周囲に広がることだ、という点です。厚生労働省の指針でも、優越的な関係の例として「同僚又は部下からの集団による行為で、これに抵抗又は拒絶することが困難であるもの」が挙げられています。一人の陰口の段階なら、まだやりようがあります。しかしそれが「あの上司はダメだ」という空気としてチームに定着してしまうと、上司一人の力で覆すのは相当難しくなります。

だから、初動が大事です。私のケースでは、陰での上司下げの話を知った時点で、周りのメンバーとの1対1の対話を意識的に増やしました。相手を名指しで否定するのではなく、自分の考えや判断の背景を、一人ひとりに直接説明する機会を作る、ということです。陰口が効くのは、情報の空白があるときです。上司が何を考えているか分からない状態なら、耳に入ってくる悪評がそのまま真実として定着します。逆に、日頃から直接の対話があれば、メンバーは自分の目で判断してくれます。実際、あのとき助けられたのは、それまでに積み上げてきたメンバーとの関係でした。攻撃してくる一人と戦うのではなく、残りの全員との信頼を厚くする。遠回りに見えて、これが一番の防御になります。

相手が去った後に、思うこと

私のケースでは、その社員は短期間で辞めていきました。ほっとしたのが本音です。ただ同時に、後味の悪さも残りました。世間ではああいう人を「モンスター社員」と呼ぶことがありますが、一人の人間をその一言で片付けていいのか、という引っかかりは、今もあります。

それでも、これだけは言えます。ああいう経験は、怖い。70人を見てきて、詰める側の怖さも詰められる側のつらさも知っているつもりだった私でも、部下からの攻撃は別種の怖さがありました。防御の型が、上司側には用意されていないからです。だからこそ、いま渦中にいる方には、「あなたの感じている怖さは、おかしくない」と伝えたいのです。

自分の心が削られているなら

最後に、一番大事なことを書きます。管理職も労働者です。就業環境を害されない権利は、部下と同じようにあります。

記録を取り、報告し、対応しても状況が変わらず、出勤前に胃が重い日が続いているなら、その職場から離れることも、まっとうな選択肢です。役職を任されている責任感から、「自分が投げ出すわけにはいかない」と考える人ほど抱え込みますが、あなたが壊れてまで守らなければならない職場はありません。マネジメント経験は、どこの会社でも通用する持ち運びのきく財産です。環境を変えて、その財産を正当に扱ってくれる場所で活かすという道は、逃げではありません。

よくある質問

Q. 部下を普通に注意しただけで「パワハラだ」と言われそうで、指導が怖くなりました。
厚生労働省の指針には、「客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導」はパワハラに該当しない、と明記されています。遅刻など社会的ルールを欠いた言動を再三注意しても改善されない相手に一定程度強く注意する、重大な問題行動をした相手に一定程度強く注意する、といった対応は「該当しないと考えられる例」として指針に挙げられています。萎縮して指導をやめてしまうほうが、組織にとってはマイナスです。感情的にならず、事実に基づいて、必要な指導は続けて大丈夫です。

Q. 本人に「それはハラスメントだ」と直接伝えるべきですか。
私は、いきなり正面からラベルを貼ることはおすすめしません。「ハラスメント」という言葉を出した瞬間、対話ではなく争いになりやすいからです。まずは「その言い方だと、こちらも受け止めにくい。指摘の中身は聞くから、伝え方を変えてほしい」と、態様に絞って要望を伝えるほうが、事態が動きやすいと感じます。それでも改まらず、エスカレートするようであれば、そのやり取り自体も記録に残したうえで、人事や上司を交えた場に切り替えるのが筋です。段階を踏んだという事実そのものが、あなたの対応の正当性を裏付けてくれます。

Q. 人事に相談したら、自分の評価が下がりませんか。
可能性としてゼロとは言いません。ただ、事実の記録を添えて冷静に報告する管理職と、問題を隠して現場を悪化させる管理職の、どちらが信頼されるかで考えてみてください。報告の仕方さえ間違えなければ、これは「問題を早期に可視化できる管理職」としての行動です。少なくとも私は、部下からそういう報告を受けたら、評価を下げるどころか、よく言ってくれたと思います。

最後に

部下からの逆パワハラは、実際にあります。国の指針も想定していますし、私自身も経験しました。上司だから我慢するしかない、と一人で抱え込む必要はありません。記録して、報告して、土俵を選んで対応する。それでも削られ続けるなら、環境を変えることも含めて、自分を守る選択をしてください。あなたが潰れないことが、結局はチームのためでもあります。

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